2016年11月20日日曜日

ポジティブサイコセラピー



ポジティブ心理学の挑戦 “幸福
 
ポジティブ心理学の本です。
ポジティブ心理学とはどんなものか、従来の心理学とどう違うのか、どんな普及活動をしているのか、といったことが著者自身がポジティブ心理学を研究するようになった経緯と共に書かれています。
著者はペンシルベニア大学の教授でアメリカ心理学会の会長のマーティン・セリグマン。セリグマンは著名な心理学者で学習性無気力の実験が良く知られていますが、ポジティブ心理学の分野でも草分け的存在のようです。
教授の本だけあって、内容は基本的に研究などの証拠に基づいており科学的です。ただ、この分野はまだ発達途上ということもあり、信頼性は盤石ではないようです。
たとえば、抑うつ度を下げ幸福度を上げるとして本書で勧められている「3つの良いことを書くエクササイズ」ですが、良いことを毎日3つ書くと幸せになれるか?によるとその後の研究では効果がまちまちとのことで、まだはっきりと結論が出せる状況ではなさそうです。この本は(断りはありますが)やや楽観的な解釈に片寄っている感はありました。
文章は易しいとは言えないですが、あまり学術的に偏らず一般的読み物として読むことができました。ただ、本文だけで400ページを超えておりかなり分量があります。
内容的には、第1章~第3章がポジティブ心理学の誕生から理論・実践方法までをカバーしており一番重要だと思います。この部分はポジティブ心理学がどういうものでどういったことを目指しているのがわかりやすく書かれており良かったです。
とくに、幸せという指標の問題を指摘して、それに代わりウェルビーイングを人生や社会政策の目標にすべきと書かれている部分は新鮮で読みごたえがありました。
4章以降は、コーチング・教育・軍隊といった場所でのポジティブ心理学の普及活動、達成理論やレジリエンについてなの話などが続きます。ただ、話がいろいろな方向に飛ぶため系統だって書かれているようには思えませんでした。トレーニングもいくつか書かれていますが、概要どまりなので詳細は他の本を読む必要がありそうです。


○ 従来の心理学とポジティブ心理学
これまでのセラピーは抑うつなどの問題を抱えた人のためのものだったが、精神的な障害はないのに惨めな人生を送っている人というのは普通に存在する。ポジティブ心理学はそういった人にも役に立つ。
サイコセラピーと薬の改善率はプラセボも含めて65%ほどで、その効果も一時的で時間の経過とともに弱まる。これは情動不安が多くの場合にパーソナリティ特性から生じており、大部分のパーソナリティ特性には遺伝性があるため。
ポジティブサイコセラピーのスキルとエクササイズは従来のセラピーのものとは異なっているので、両者を組み合わせることでより高い効果が期待できる。

○幸福理論の問題
近年幸せについて多くの研究がおこなわれており、幸せを人生や政策の目的にすべきという意見もあります。
しかし、セリグマンは幸福理論には不備があると言いその問題点をあげています。
・幸せという言葉が「明るい気持ち」と表裏一体になっている。明るい気持ち「ポジティブ感情」のひとつであるが、ポジティブ感情はウェルビーイングの構成要素の一つにしかすぎない。
・幸福理論による幸せは「人生の満足度」で測定するが、人びとが人生の満足度をどう報告するかは70%以上がそのときどきの気分で決まってしまう。頭で判断する割合は30%にも満たない。人生の満足度は本質的に陽気な気分を測定するものだ。
・「人生の満足度」が低くても自分の人生に意義を見出している人、充実している人はいる。
・内向的な人は幸福度が低い。幸福度をもとに政策を決めると、内向的な人や幸福度の低い人の意見を低く反映してしまう。
・子どもを持つことは幸福度を下げる。ではなぜ夫婦が子供を持つことを選ぶのか。あるいは個人的な幸福を唯一の目的にするならば自分の老いた両親を世話することを選ばないかもしれない。

○ウェルビーイング
ウェルビーイングとは自由のような「構成概念」だといいます。
自由はそれ自体が実在するものではなくいくつかの要素から構成されます。市民がどれだけ自由だと感じているか、出版物がどれくらいの頻度で検閲されているか、選挙の頻度、役人の汚職率・・・、これらを測定することで全体像を得ることができます。ウェルビーイングも同じように一つの尺度では定義しきれない存在で、いくつかのそれぞれ測定できる要素から構成されていると言います。
ウェルビーイングのそれぞれの要素は、次の3つの性質を備えていなければならないとしています。
1 ウェルビーイングに寄与する
2 そのもののよさのために多くの人が求める。単に他の要素を得るために求めるのではない
3他の要素からは独立して(単独に)定義され、測定される
この本ではウェルビーイングの構成要素として5つあげています。

・ポジティブ感情
楽しみ、歓喜、恍惚感、温もり、心地よさなど、自分が「感じるもの」。幸福理論の目標だがウェルビーイングでは複数ある要素のひとつでしかない。
ポジティブ感情を得ること目的とする生き方を著者は「快の人生」と呼んでいます。

・エンゲージメント
「フロー」に関すること。無我夢中になる行為の最中での没我の感覚。
エンゲージメントはポジティブな感覚ではない。フロー状態においては、通常、思考や感情は存在しておらず、回想においてのみ「あれは楽しかった」ということができる。
フロー状態を得ることを目的とする生き方を著者は「充実した人生」と呼んでいます。

・意味・意義
人間はどうしても人生に意味や目的を欲しがる。
自分よりも大きいと信じるものに属して、そこに使えるという生き方を「有意義な人生」としています。

・達成(または成功)
ポジティブ感情、エンゲージメント、意味・意義、ポジティブな関係性のいずれを得られることがなくても、勝つためだけ勝つという人生をおくる人がいる。
達成のための達成に捧げる人生を著者は「達成の人生」と呼んでいます。

・関係性
ポジティブな関係性の有無がウェルビーイングに深く影響することは否定できない事実だが、あらゆるポジティブな関係性は、ポジティブ感情、エンゲージメント、意味・意義、達成のいずれかを伴う(独立した要素かわからない)。
セリグマンは、ポジティブな関係性がウェルビーイングの構成要素として適切か、人は「関係性のための関係性を求める」かはわからないと書いていますが、社会脳、群居感情、集団選択といった事実からウェルビーイングを構成する基本的要素のひとつとしています。

○エクササイズ
ポジティブサイコセラピーは実践でも応用でもまだ始まったばかりの段階であるため、結果は予備的とのことです。
この本では数個のエクササイズを紹介していますが、あまり詳細は書いていないので詳しく実践するには他の本も見る必要がありそうです。
・感謝の訪問
自分の人生をよい方向に変えてくれた人、頭に浮かんだ人に感謝の手紙を書いて、自分で直接その手紙を届ける。
・うまくいったこと
今日うまくいったことを3つ書き出して、それらがどうしてうまくいったのかを書いてみる。
・特徴的強み
VIA強みテストを受ける。テストを完了した後で、毎週決まった時間を設け、自分の特徴的強みを新しい方法で活用する。
・積極的-建設的反応
相手に反応する方法は基本的に4種類あるが、そのうち積極的-建設的反応だけが相手との関係性を強化する。相手が話しかけてくるたびにその話に注意深く耳を傾け、積極的かつ建設的に反応する努力をしてみる。

2016年11月11日金曜日

ポジティブ思考の落とし穴

<自己啓発本は前向きになることが幸せな人生のカギだとうたうが、楽観主義を強要されて鬱になるリスクも>

「楽観的になりなさい!」「幸せは自ら選んで手に入れるもの」――書店には幸せになるための自己啓発本が数多く積まれている。アメリカで1952年に出版され、15カ国語に翻訳された『積極的考え方の力――ポジティブ思考が人生を変える』(邦訳・ダイヤモンド社)は今でも根強い人気だ。

 プラス思考を身に付ければ誰でも幸せになれるという考え方は、問題に対処するスキルを向上させたり心の健康を保つ手法として、学校や職場、軍隊などで広く採用されてきた。

 しかしこの考え方が広まるにつれて、鬱や不安に悩んだり、時々ネガティブな感情を抱くだけでも恥ずべきことだと思う意識も高まり始めた。その弊害は、心理学の学術誌「モチベーション・アンド・エモーション」でも指摘されている。

 同誌10月号に掲載されたエール大学の研究者エリザベス・ニーランドらの研究によると、感情を簡単にコントロールできると考えている人は、そうでない人に比べて、ネガティブな感情を覚えたときにそれを自分のせいだと感じやすいという。

 心理学者たちは何年も前から「ポジティブ心理学崇拝」の危険性、特に自尊心に及ぼす影響を研究してきた。その結果、ポジティブ思考によって幸せになれる人もいるが、挫折感を覚えたり鬱に陥る人もいることが示されている。

【参考記事】「誰かに認められたい」10代の少女たちの危うい心理

 幸せじゃないのは自分に問題があるせいだと責め立てられるようなポジティブ思考の押し付けによって、アメリカの鬱病患者はかえって増加していると訴える専門家もいる。

 メンタルヘルスにおけるポジティブ心理学のアプローチの始まりは、1950年代にさかのぼる。アメリカの心理学者アブラハム・マズローが54年に著した『人間性の心理学――モチベーションとパーソナリティ』(邦訳・産業能率大学出版部)の中で、「ポジティブ心理学」という言葉が初めて登場した。

 マズローはこう書いている。「心理学はこれまでポジティブな側面よりもネガティブな側面ばかりに光を当ててきた。人間の欠点や病気、罪について多くを研究してきたが、人間の潜在能力や美徳などについてはほとんど目が向けられていない。自ら研究領域を半分に制限してきたようなもので、しかもそれは人間の暗く卑しい心理だ」

笑えない自分に罪悪感

 近年は企業や軍隊でもポジティブ心理学が採用されるようになり、その影響は大衆文化にも及んでいる。だがポジティブ心理学が広まるにつれ、そのアプローチはよりシンプルな言葉で表現されるようになった。「ポジティブ思考」だ。

 心理学者のマーティン・セリグマンが考案したポジティブ心理学の下に、ずさんな研究が数多く発表されるようになったと、ウェルズリー大学のジュリー・ノレム教授は指摘する。それらの研究の大半が、楽観主義とポジティブ思考が幸せな人生をもたらすと主張した。



 だが、このように簡略化されたポジティブ心理学は、むしろ人々の心に害を及ぼすのではないかとの懸念が近年高まっている。「前向きになることを強要されている」と、ボードン大学の心理学者バーバラ・ヘルドは言う。「苦しいときでも笑ったり楽観的になれない人は駄目だという雰囲気がある。深い悲しみに陥っても、数週間で乗り越えるべきだと思われている」

 ヘルドによれば、ポジティブ思考の強要は2段階で襲ってくる。まず心に痛みを抱えている自分が嫌になる。次にそこから前に進めず、プラスの側面に集中することができない自分に罪悪感を覚えるようになる。

 ポジティブ思考が裏目に出ることは複数の研究でも証明されている。クイーンズランド大学(オーストラリア)が12年に行った研究では、後ろ向きになるべきではないと周りから思われていると感じていると、よりネガティブな感情を抱きやすいことが分かっている。

 09年にサイコロジカル・サイエンス誌に掲載された研究では、「私はみんなに好かれる人間だ」などポジティブな言葉を使うよう強制されると、かえって自信が持てなくなる人がいるという。

【参考記事】中絶してホッとする女性はこんなに多い──ネットで買える中絶薬利用、終身刑のリスクも

プラス思考で金融危機に

 世の中には、ポジティブ思考よりもネガティブ思考、いわゆる「防衛的悲観主義」のほうが向いている人が存在する。防衛的悲観主義者はすべてが悪いほうに転ぶ可能性を考えることによって不安を緩和し、往々にして悪い結果を回避すると、ノレムは言う。

 一方で防衛的悲観主義者がポジティブ思考を強要されると、潜在能力を発揮できなくなる。ノレムによれば、アメリカ人の25~30%が防衛的悲観主義に当たる。

 ポジティブ思考のもう1つの弊害は、現実から目をそらす「否認」だ。深刻な状況に陥っているのは明らかなのに、すべてうまくいくと信じて、問題の解決を図ろうとしない。

『ポジティブ病の国、アメリカ』(邦訳・河出書房新社)の著者バーバラ・エーレンライクは、08年の金融危機の責任の一端は人々が住宅ローンを払えなくなるといった悪いシナリオから目を背けたことにあると指摘する。

 結局、現代人が抱える複雑な問題を一気に解決して幸せをもたらすような魔法の心理療法はない。人生がうまくいかなくなったときに後ろ向きの感情を抱いてしまうのは、決して悪いことではない。

「いつも前向きでいる必要はないし、第一そんなことは不可能だ」と、ノレムは言う。「前向きでいられないのは心に問題があるせいではない。人間としていろんな感情を持つのは当然のことだ」

2016年10月1日土曜日

マインドフルネスのコツ、坐禅儀の実践

最近、企業でも活用されているという「マインドフルネス」そのやり方は
道元の説く(もっとも、坐禅としては禅宗全体でも大きな違いはないと思うが)
「坐禅儀」とほぼ同じである。これが説かれたのが、寛永元年(1624)と
言われているから400年ほど前にもこの実践手法はあったということだ。
人間が大きく変わっていないのであるから、当然なのかもしれないが。
マインドフルネスと坐禅の実践手法をもう一度振り返り、どちらでもよいので
実践すると「坐禅をやった」など知魚大袈裟なものではなく、日ごろのちょっと
やる仕草程度で頑張ってもらいたいもの。

1.マインドフルネス

(1)背筋を伸ばして、両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座り、目を閉じる
脚を組んでも、正座でも、椅子に座っても良いです。「背筋が伸びてその他の体の力は
抜けている」楽な姿勢を見つけて下さい。

(2)呼吸をあるがままに感じる
呼吸をコントロールしないで、身体がそうしたいようにさせます。
そして呼吸に伴ってお腹や胸がふくらんだり縮んだりする感覚に注意を向け、その感覚
の変化を気づきが追いかけていくようにします。
例えば、お腹や胸に感じる感覚が変化する様子を、心の中で、「ふくらみ、ふくらみ、
縮み、縮み」などと実況すると感じやすくなります。

(3)わいてくる雑念や感情にとらわれない
単純な作業なので、「仕事のメールしなくちゃ」「ゴミ捨て忘れちゃった」など雑念が
浮かんできます。そうしたら「雑念、雑念」と心の中でつぶやき、考えを切り上げ、「
戻ります」と唱えて、呼吸に注意を戻します。
「あいつには負けたくない」など考えてしまっている場合には、感情が動き始めていま
す。「怒り、怒り」などと心の中でつぶやき、「戻ります」と唱えて、呼吸に注意を戻
します。

(4)身体全体で呼吸するようにする
次に、注意のフォーカスを広げて、「今の瞬間」の現実を幅広く捉えるようにしていき
ます。
最初は、身体全体で呼吸をするように、吸った息が手足の先まで流れ込んでいくように
、吐く息が身体の隅々から流れ出ていくように感じながら、「ふくらみ、ふくらみ、縮
み、縮み」と実況を続けていきます。

(5)身体の外にまで注意のフォーカスを広げていく
さらに、自分の周りの空間の隅々に気を配り、そこで気づくことのできる現実の全てを
見守るようにしていきます。
自分を取り巻く部屋の空気の動き、温度、広さなどを感じ、さらに外側の空間にも(部
屋の外の音などに対しても)気を配っていきます。それと同時に「ふくらみ、ふくらみ
、縮み、縮み」と実況は続けますが、そちらに向ける注意は弱くなり、何か雑念が出て
きたことに気づいても、その辺りに漂わせておくようにして(「戻ります」とはせずに
)、消えていくのを見届けます。

(6)瞑想を終了する
まぶたの裏に注意を向け、そっと目を開けていきます。
伸びをしたり、身体をさすったりして、普段の自分に戻ります



姿勢は?: 呼吸が楽にできて、一定時間止まってくつろげる姿勢であれば何でもOK。
立ったままでも、座ったままでも。
時間と頻度は?: GoogleでマインドフルネスとEQのプログラムSIY(Search Inside Y
ourself)を創り出し、世界で注目されているチャディ・メン・タンは、「ひと呼吸で
も、数分であっても、あなたができる時間であればそれがベストな時間」と言っている
。はじめは、がんばりすぎず無理のない範囲で行い、気に入ったら時間を延ばせばよい
。頻度についても同じく、気が付いたらちょこちょこ気分転換のつもりで。
場所は?: 瞑想中に家族や同僚に見られて、怪しまれたらどうしよう――多くの人が
この不安を持っているようだ。人知れず自宅で静かに、というのが便利で理想的ではあ
るが、それも難しい場合、電車やバスでの移動中、カフェ、電車や信号の待ち時間、会
社の席でPCの画面や資料をうつむいて読むふりをしながら、など。参考にして自分の環
境で探してみよう。
やり方は?: 今すぐ、そのままの状態で立ち止まり、意図的に自分に注意を向けてみ
よう。目は閉じても、うつむいた状態でもよい。うつむいた状態は、人から見られても
怪しまれないというメリットあり(笑) 次の瞬間も、同じく自分に注意を向ける、そ
してまた次の瞬間も、という風に。これを少しの間続けるために、今自分の中で起こっ
ている呼吸を注意の対象としてみる。まずはこれだけで十分。(ビデオインストラクシ
ョンはこちら)
そう、今このブログを読むのを30秒だけやめて、上記をトライしてみよう。それだけ
で、あなたはすでにマインドフルネス瞑想経験者だ。

【より楽しんで継続するためのコツ】

心地よさや自由をのびのび味わう: マインドフルネス瞑想の最中は、どこにも行かな
くていい、何もしなくていい、誰かになる必要もない。ただ、あるがままでいられる何
より自由な時間だ。この時間だけでも、先の計画や心配事から自分を解放しよう。楽に
呼吸を続け、今の自分とともにある自由さ、くつろぎを体感できたらさらに続けたくな
る。はじめからストイックに修行だと思わないほうがいい。
1日を振り返って、瞑想の影響・価値を考える: 立ち止まって瞑想した(あるいはし
なかった)ことがどう影響したか、振り返ってみよう。「あれ、今日はなぜか苦手な上
司ともうまく話せた」「あれ、今日はなぜかイライラしがちだった」など。そして続け
る価値があると思えば、続けたり深めたりすればよいし、そうでなければ無理に続ける
必要はない。自発的に、自由に行うこと。
雑念がやってくることも歓迎して楽しむ: 呼吸から意識が逸れて「昨日の○○さん、
なんであんな態度だったんだろう?」「今日のランチなににしよう?」など思いが「今
・ここ」から外れることももちろんOKだ。雑念が浮かぶたびに「しまった!」「いけな
い!」とダメ出しをしていると、瞑想は苦しいものになって、続けるのもいやになるだ
ろう。それらの思いは何であれ、あなたの「今・ここ」に訪れてくれた訪問者として迎
え入れ、それからまた呼吸に意識を戻せばよい。このニュートラルな感覚は、日常生活
やビジネスでも冷静さや信頼感を創り出す、重要な基盤となってくれる。

2.坐禅儀より
坐禅の悪い所は、一般の人に何か大変なもの、苦痛が伴うものという怖れを引き起こす
ような
導きかたをしているからではないだろうか。

坐禅儀の所作との対比

正法眼蔵 第十一

坐禅儀 (ざぜんぎ)

 参禅は坐禅なり。

坐禅は静処よろし。坐蓐あつく敷くべし。風烟をいらしむることなかれ、雨露をもらし
むることなかれ、容身の地を護持すべし。かつて金剛の上に坐し、盤石の上に坐する蹤
跡あり、かれらみな草をあつく敷きて坐せしなり。坐処あたたかなるべし、昼夜暗から
ざれ。冬暖夏涼をその術とせり。

 所縁を放捨し、万事を休息すべし。

善也不思量なり、悪也不思量なり。
心意識にあらず、念想観に非ず。
作仏を図することなかれ、坐臥を脱落すべし。


飲食を節量すべし、光陰を護惜すべし。頭燃をはらふが如く坐禅を好むべし。黄梅山の
五祖、異なる営みなし、唯務坐禅のみなり。坐禅のとき、袈裟をかくべし、蒲団を敷く
べし。蒲団は全跏に敷くには非ず、跏趺の半ばよりは後ろに敷くなり。然あれば、累足
の下は坐蓐にあたれり、脊骨の下は蒲団にてあるなり。これ仏々祖々の坐禅のとき坐す
る法なり。

 あるいは半跏趺坐し、あるいは結跏趺坐す。
結跏趺坐は、右の脚をひだりの股の上に置く。左の足を右の股の上に置く。左の足を右
の股の上に置く。脚の先、各々股と等しくすべし。参差なることえざれ。
半跏趺坐は、ただ左の足を右の股のうへに置くのみなり。

 衣衫を寛繋して斉整ならしむべし。右手を左足の上に置く。左手を右手の上に置く。
二つのおほ指、先あひささふ。両手斯くの如くして身に近づけ置くなり。二つのおほ指
のさし合わせたる先を、ほぞに対して置くべし。正身端坐すべし。左へそばだち、右へ
傾き、前にくぐまり、後ろへあふのくことなかれ。必ず耳と肩と対し、鼻と臍と対すべ
し。舌は、かみのあぎにかくべし。息は鼻より通ずべし。唇・歯あひつくべし。目は開
すべし、不張不微なるべし。

 斯くの如く身心を調へて、欠気一息あるべし。

兀々「ごつごつ」と坐定して思量箇不思量底なり。

不思量底如何思量。

これ非思量なり。

これすなはち坐禅の法術なり。

坐禅は習禅にはあらず、大安楽の法門なり。不染汚の修証なり。


寛元元年癸卯冬十一日、越州吉田県吉峰に在って精舎の衆に示す



參禪は坐禪なり。
坐禪は靜處よろし。坐蓐あつくしくべし。風烟をいらしむる事なかれ、雨露をもらしむ
ることなかれ、容身の地を護持すべし。かつて金剛のうへに坐し、盤石のうへに坐する
蹤跡あり、かれらみな草をあつくしきて坐せしなり。坐處あきらかなるべし、晝夜くら
からざれ。冬暖夏涼をその術とせり。

諸縁を放捨し、萬事を休息すべし。善也不思量なり、惡也不思量なり。心意識にあらず
、念想觀にあらず。作佛を圖する事なかれ、坐臥を脱落すべし。

飮食を節量すべし、光陰を護惜すべし。頭燃をはらふがごとく坐禪をこのむべし。黄梅
山の五祖、ことなるいとなみなし、唯務坐禪のみなり。

坐禪のとき、袈裟をかくべし、蒲團をしくべし。蒲團は全跏にしくにはあらず、跏趺の
なかばよりはうしろにしくなり。しかあれば、累足のしたは坐蓐にあたれり、脊骨のし
たは蒲團にてあるなり。これ佛佛祖祖の坐禪のとき坐する法なり。

あるいは半跏趺坐し、あるいは結果趺坐す。結果趺坐は、みぎのあしをひだりのももの
上におく。ひだりの足をみぎのもものうへにおく。あしのさき、おのおのももとひとし
くすべし。參差なることをえざれ。半跏趺坐は、ただ左の足を右のもものうへにおくの
みなり。 衣衫を寛繋して齊整ならしむべし。右手を左足のうへにおく。左手を右手の
うへにおく。ふたつのおほゆび、さきあひささふ。兩手かくのごとくして身にちかづけ
ておくなり。ふたつのおほゆびのさしあはせたるさきを、ほそに對しておくべし。

トランスパーソナル

マズローの自己実現的人間の特徴とは、
①現実をより有効に知覚し、それと快適な関係を保っている。
②自己、他者、自然に対する受容的態度
 十分に事故に満足しており、それだけでなく、人を受け入れることが出来、
 自然を愛している。
③自発的な行動
④物事に対して「自己中心的でなく、問題中心的である」こと。
⑤「孤独、プライバシーを好み、欠乏や不運に対して毅然としている」こと。
⑥文化や環境からの自立性、つまり流行やまわりの意見、時代の価値観に
振り回されず、自分で考え、判断する能力。
⑦人生の基本的に必要なことを繰り返し新鮮に、無邪気に、畏敬や喜びをもって
味わうことができる。
⑧しばしば神秘経験や至高経験をしていること。
⑨共同社会感情
愛情が家族や仲間だけに限定されず深い人類愛にある。
⑩深い対人関係
⑪民主的性格構造
自分も人も人間として全く平等な価値や権利を持っている。
⑫手段と目的の区別
手段に必要以上にこだわることがない。
⑬哲学的で悪意のないユーモアのセンスがある。
不必要なこだわりがなく、自信があり、暖かい愛情を持っている。
⑭創造性
⑮文化に組み込まれることに対する反抗心
これは⑥とも重なる。
⑯確固とした価値体系を持っている
⑰対立性、二分性の解決や欲望と理性の調和
 




ロジャーズやマズローらの人間性心理学の自己超越の概念を発展させて、個を超える領
域への精神的統合を重んじる心理学。

臨床的には一定の効果が確認されているが宗教、神秘主義であるという批判も根強い。

代表者はスタニスラフ・グロフ、ケン・ウィルバー。

以下は支持する立場からの宣言文的紹介。

トランスパーソナル心理学は、哲学であり、思想であり、学問であり、幸福論であり、
自分学であり、医療であり、すべての科学の理論(物理学や量子力学をも含む)と、実
証されたことを結集して、より高度な心理状態を達成しようというものであり、セラピ
ーやワークをともなう。

 孤立、不安、悩み、いらだち、身勝手さ、憎しみ、争い、奪いあい、殺しあい、とめ
どもない精神破壊、環境破壊から、個人や人類が生き延びるためにはどうしたらいいの
か。

 近代的なアメリカ式個人主義は、すでに限界に来ており、その限界は越えなければな
らないし、越えられるということである。

 個人や国家が健やかに生きるために、資本主義も、社会主義も行き詰まってしまった
現代において、この思想以外に信じるべきものが、ぼくには他に見当たらないのだ。

 これは、現代思想の最前線にあり、政治・経済の体勢だけでなく、人間の”心”をど
うするかについて、普遍的で妥当な提案を含んでいる。

 心のそれぞれの発達段階、心の層に応じたさまざまなセラピーの統合、というトラン
スパーソナルの骨組みは、孤立した個人性という意識を越え、個を越えたもの(他者・
共同体・人類・生態系・地球・宇宙、そしてブラフマン・神・空といった)との一体感
を回復するという意味できわめて宗教的でありながら、排他的でなく、他者による再実
験・反論・修正が可能でオープンな仮説であるという意味で科学なのだ。

 トランスパーソナルの主張をまとめると、次の3つのポイントになる。

1.人間の成長は、自我の確立、実存の自覚、自己実現などの言葉で示される

  <人格=個人性=パーソナリティ>の段階で終わるのではなく、他者・共同

  体・人類・生態系・地球・宇宙との一体感・同一性(アイデンティティ)の

  確立、すなわち<自己超越>の段階に到達することができる。

2.人間の心は生まれつき、構造的にそうした成長の可能性をもっている。

3.その成長は適切な方法の実践によって促進できる。

 周囲に流されることなく、自ら判断し、自分の命の、かけがえのないすばらしさ、愛
しさを知っているからこそ、他者の命をも尊重することのできる、理性、批判力、独立
性、自律性といった、個人的なもっとも正当で生産的な面を充分に包み込みながら、そ
れを越えていくこと、”自己放棄”ではなく”自己確立”を経たうえでの”自己超越”
(トランスパーソナル)である。

 いい人にならなければならない、なりたい、なろうと思うだけではなれないのは、エ
ゴイズムが、知識、理性、意識の問題ではなく、人間の魂の奥深いところの問題、いわ
ば「深層心理」の問題であるからではないのか。とすれば、いかにして、心の深層に深
く根を張ったエゴイズムを絶ち切り、枯らせてしまうことができるのか、しかしそれは
、他人の話しではなくまず自分のことにおいてなのだ。このことこそが、ずっとぼくが
抱え込んできた問題なのだ。

 トランスパーソナルな人たちは、エゴイズムの根深さ、深層性を十分認識したうえで
、それでも人間の心は構造的にエゴイズムを越えることができるようにできていると主
張する。

 キリスト教の”原罪”、仏教でいう”無明”の再発見であったといってもいい。その
点で「人間は根本的に罪深いもので、原罪は人間の力では解決できない」とする正統キ
リスト教よりも、「闇がどれほど深くても光が照ったとき、たちまちにしてなくなるよ
うに、永遠の昔からの無明も悟ったとたんに克服される」とする仏教思想に近いのだ。

 トランスパーソナルは、西洋科学(心理学)と東洋宗教(特に禅)の統合という面を
もっている。最終的に目指す心理状態は、悟りなのだ。

 アメリカでは、禅は、鈴木大拙の英文の著作によって知識として早くから知られてい
た。それに加えて、臨済宗系は西海岸の千崎如幻や東海岸の佐々木指月らの活動、曹洞
宗系は鈴木俊隆のサンフランシスコ禅センターや前角博雄のロサンジェルス禅センター
における活動などによって、坐禅の実習が広範囲に行われるようになっていた。カリフ
ォルニアでは、神父、牧師たちが座禅をしているという。

 般若心経の最初に出てくるように、仏教が生み出したものの中で禅が何よりも重視し
ているのはキリスト教と同じく言葉である。

  形は空と異ならず

  空は形と異ならず

  形はまさしく空であり

  空はまさしく形である

 二千年後、西洋の物理学がこの説に同意した。

 科学的な宇宙の考え方は量子力学と、エネルギーと物質を別の物と考えることに疑問
を呈したアインシュタシンの相対性理論によって、根本的に変わった。宇宙が論理的に
行動する微細な固形物で出来上がっているという都合のよい考え方はこっぱみじんに吹
き飛んだ。粒子は別個の存在ではなく、互いに関連している。世界は相互に関連した出
来事の連続であり、とぎれることのない動的な総合だ。科学者は今、観察者ではなく参
加者になった。そして物理学と神秘主義には、はっきり平行線に達し、ひとまわりして
元に戻った。ぼくの性格も、ひとまわりして元に戻った。

「(現代物理学の)発見には強力な認識がひそんでいる。すなわち、これまで気がつか
なかった精神の力を認識することで《現実》が形づくられるのであり、その反対ではな
いということである。その意味で物理学の原理と、悟りの原理である仏教の原理に一線
を画せなくなる」

 誤解を恐れずに端的に言うと、トランスパーソナルとは、それぞれの心理の成長段階
に適した心理的処方をあたえる事により、個人が個人意識を越え宇宙のふところに深い
安らぎを見いだした心境、<宇宙意識>=個と宇宙の一体感(仏教でいう悟りの境地)
にまで、誰でも到達することができるという体系なのだ。

 そして処方を与えるのは、自分自身であるから、自分を突き詰めて行くことこそが、
最大の主題になる。

知らず知らずのうちに自分の内面に押しやられてしまった面も含めて、
自分自身を認め、自分らしく生きる…
 
それが、ユングの言うところの「自己実現」です。
 
この考え方は、1960年代の米国で急速に支持されるようになります。
なぜなら、当時のアメリカでは、
大学紛争や反戦運動、ウーマン・リブ運動などが盛んとなり、
人間性の解放(すなわち、社会的規範による抑圧からの解放)が
叫ばれる時代だったからです。
 
このような流れで生まれたのが、「人間性心理学」という新しい学問。
代表的な心理学者としては、
カール・ランソム・ロジャーズやアブラハム・マズローらがいます。
 
●ロジャースの代表的な理論
「人間の変容は、来談者と治療者の出会いによって達成される」
 
●マズローの代表的な理論
「人が生まれつき持っている能力を発揮するのが自己実現である」
トランスパーソナル心理学の誕生
ユング心理学の理論、そして、ロジャースやマズローらによる
「人間性心理学」の影響を受けて誕生したのが、
「トランスパーソナル心理学」です。
 
トランスパーソナルとは、読んで字のごとく、
「個を超えた」という意味。
「個を超える」という言葉には、次の2つの意味があります。
 
◆水平方向のつながり
対話を通じて、性や民族の違いを超えて
水平方向につながりを広げていこうという考え方。
 
◆垂直方向のつながり
瞑想やヨガ、禅修行やシャーマニズムといった内的な体験を通じて、
自分の身体や感覚に直接アプローチすること。
言葉や意識の働きを超えて、無意識でつながろうというアプローチ法。
 
 
…つまり、横にも縦にも広くみんなとつながろうぜ!!
という考え方ですね。(ちょっと乱暴な言い方ですが…)
 
垂直方向につながることは、神話や古典文学といった
古くから伝わる「イメージの世界」を大切にすることにも
つながっていきます。
 
これはつまり、ユングが提唱した
「集合的無意識」にも関係する考え方ですよね。
トランスパーソナル心理学の特徴
トランスパーソナル心理学の最大の特徴は、東洋的瞑想を重視したこと。
 
具体的な方法としては、瞑想やヨガ、禅修行、気功法、太極拳…等々。
これは、「垂直方向のつながり」にカテゴライズされ、
言葉を介さずに自分自身の身体や内面に直接アプローチする方法です。
 
実は、この点については、
ユングとはちょっと考え方が違っているところ。
ユングは、このように言葉を介さずに内面にアプローチする方法は
あまり好みませんでした。
 
なぜならば、意識的に考える力や、
他者と対話する力を弱めてしまうからです。
 
しかし、ユングが活躍した時代と比べて、
急激に西洋的な合理主義思想が拡大した現代にあっては、
水平方向に浅いつながりは拡大しつつも
垂直方向の深いつながりは弱くなっていく一方です。
 
こうした状況に警鐘を鳴らす学者も多く、
東洋的思想を重要視する声も多くなっているのです。
 
加えて、ユングの時代よりも東洋的な思想に関する研究が進み、
人々に受け入れられやすくなっていることもまた事実。
 
トランスパーソナル心理学が東洋的な思想を大胆に取り入れている背景には、
このような「時代の変化」も大きく影響しているようですね。

2016年9月3日土曜日

マインドフルネス



今、世界が本気で取り組み始めたストレス対策。その背景にあるのは、ストレスが原因とみられる心と体の病の急増です。第2回では、最新科学によってその効果が裏付けられた誰にでもできる画期的なストレス対策を、世界の最前線から報告しました。

心をむしばむストレス、その正体として浮かび上がってきたのがストレスホルモンの「コルチゾール」です。長く続くストレスでコルチゾールが多量に分泌されると、脳の海馬で、神経細胞の突起を減少させることが分かってきました。海馬は、記憶を司り感情に関わる部位。損傷すると、認知症やうつ病につながる可能性が見えてきたのです。

こうした心の病を防ぐため、注目されるのが“最新のストレス対策”です。
認知行動療法をストレス対策に応用した「コーピング」。そして、瞑想をベースに生まれたプログラム「マインドフルネス」。世界中で注目される2つのストレス対策をご紹介します。

コーピングを始めてみよう!

番組内で臨床心理士の伊藤絵美さんに教えていただいた『コーピング入門』をご紹介します。
代表的なコーピングの手法です。

(1)ストレスに対してどんな気晴らしや対策を行えば効果的かリストアップします
「できるだけ多くあげる」ことが大切です。100個を目標に頑張りましょう。

(2)実際にストレスがかかった時、それがどういうストレスなのかモニターします
弱いストレスか強いストレスか。そして、自分の体にはどのような反応として現れたか、例えば心臓がドキドキする体の反応か、気分が沈む心の反応か、客観的に観察します。

(3)そのストレスに見合った気晴らしや対策を行います
体に反応が現れることが多い「頑張るストレス」の時には、音楽を聴いてリラックスするなど、気分をしずめるものが効果的と考えられています。
逆に、心に反応が現れることが多い「我慢するストレス」の時には、カラオケで盛り上がるなど、気分を上げるものが効果的と考えられています。

(4)その結果、ストレスが減ったかどうかを自分で判断
まだストレスを感じていたら、さらに対策を続けたり、別の対策に切り替えたりします。

このように、自らのストレスの観察、そして対策を、意識的、徹底的に繰り返すことが大切です。

※「ストレス対策を100個もリストアップするなんて難しい!」と感じますよね。
そのコツは「行動するコーピング」だけではなく「認知するコーピング」も取り入れること。
ストレスが下がる場面や行動を『イメージ』するだけでも立派なストレス対策です。
伊藤先生が指導した男性の100個のリストを参考にして下さい。

マインドフルネスを始めてみよう!

番組にも出演した早稲田大学の熊野宏昭教授による『マインドフルネス入門』をご紹介します。
最初は、10~15分を目安に始めます。

(1)背筋を伸ばして、両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座り、目を閉じる
脚を組んでも、正座でも、椅子に座っても良いです。「背筋が伸びてその他の体の力は抜けている」楽な姿勢を見つけて下さい。

(2)呼吸をあるがままに感じる
呼吸をコントロールしないで、身体がそうしたいようにさせます。
そして呼吸に伴ってお腹や胸がふくらんだり縮んだりする感覚に注意を向け、その感覚の変化を気づきが追いかけていくようにします。
例えば、お腹や胸に感じる感覚が変化する様子を、心の中で、「ふくらみ、ふくらみ、縮み、縮み」などと実況すると感じやすくなります。

(3)わいてくる雑念や感情にとらわれない
単純な作業なので、「仕事のメールしなくちゃ」「ゴミ捨て忘れちゃった」など雑念が浮かんできます。そうしたら「雑念、雑念」と心の中でつぶやき、考えを切り上げ、「戻ります」と唱えて、呼吸に注意を戻します。
「あいつには負けたくない」など考えてしまっている場合には、感情が動き始めています。「怒り、怒り」などと心の中でつぶやき、「戻ります」と唱えて、呼吸に注意を戻します。

(4)身体全体で呼吸するようにする
次に、注意のフォーカスを広げて、「今の瞬間」の現実を幅広く捉えるようにしていきます。
最初は、身体全体で呼吸をするように、吸った息が手足の先まで流れ込んでいくように、吐く息が身体の隅々から流れ出ていくように感じながら、「ふくらみ、ふくらみ、縮み、縮み」と実況を続けていきます。

(5)身体の外にまで注意のフォーカスを広げていく
さらに、自分の周りの空間の隅々に気を配り、そこで気づくことのできる現実の全てを見守るようにしていきます。
自分を取り巻く部屋の空気の動き、温度、広さなどを感じ、さらに外側の空間にも(部屋の外の音などに対しても)気を配っていきます。それと同時に「ふくらみ、ふくらみ、縮み、縮み」と実況は続けますが、そちらに向ける注意は弱くなり、何か雑念が出てきたことに気づいても、その辺りに漂わせておくようにして(「戻ります」とはせずに)、消えていくのを見届けます。

(6)瞑想を終了する
まぶたの裏に注意を向け、そっと目を開けていきます。
伸びをしたり、身体をさすったりして、普段の自分に戻ります。

うつ病などの治療を受けている方は、自分の判断で始めず医師に相談してください。




マインドフルネスとは「今自分に起こっていることを、判断や批判なくそのまましっかり認識すること」=心の整った健全な状態であり、デフォルトでこの心の状態に自然になるようにするための訓練法として、最も効果的なのがマインドフルネス瞑想だ。
アップルのスティーブ・ジョブスが瞑想実践者だったのは有名だが、グーグル、インテル、フォード自動車、最近ではイギリス国会などでも取り入れられるようになったマインドフルネスや瞑想は、世界的にも自己管理の王道となりつつある。健康やビジネス上での利点が科学的にも次々と確認されるようになった。
ポイントとしては、瞑想といっても偏った宗教的な要素がないこと、そして忙しいビジネスマンでも手軽に実践できること。そこで、興味はあるけどどう始めるのがよいか、と迷っている方へ、よくある質問を中心にまとめてみた。

【まずは初心者向けベーシック情報】

姿勢は?: 呼吸が楽にできて、一定時間止まってくつろげる姿勢であれば何でもOK。立ったままでも、座ったままでも。
時間と頻度は?: GoogleでマインドフルネスとEQのプログラムSIY(Search Inside Yourself)を創り出し、世界で注目されているチャディ・メン・タンは、「ひと呼吸でも、数分であっても、あなたができる時間であればそれがベストな時間」と言っている。はじめは、がんばりすぎず無理のない範囲で行い、気に入ったら時間を延ばせばよい。頻度についても同じく、気が付いたらちょこちょこ気分転換のつもりで。
場所は?: 瞑想中に家族や同僚に見られて、怪しまれたらどうしよう――多くの人がこの不安を持っているようだ。人知れず自宅で静かに、というのが便利で理想的ではあるが、それも難しい場合、電車やバスでの移動中、カフェ、電車や信号の待ち時間、会社の席でPCの画面や資料をうつむいて読むふりをしながら、など。参考にして自分の環境で探してみよう。
やり方は?: 今すぐ、そのままの状態で立ち止まり、意図的に自分に注意を向けてみよう。目は閉じても、うつむいた状態でもよい。うつむいた状態は、人から見られても怪しまれないというメリットあり(笑) 次の瞬間も、同じく自分に注意を向ける、そしてまた次の瞬間も、という風に。これを少しの間続けるために、今自分の中で起こっている呼吸を注意の対象としてみる。まずはこれだけで十分。(ビデオインストラクションはこちら
そう、今このブログを読むのを30秒だけやめて、上記をトライしてみよう。それだけで、あなたはすでにマインドフルネス瞑想経験者だ。

【より楽しんで継続するためのコツ】

心地よさや自由をのびのび味わう: マインドフルネス瞑想の最中は、どこにも行かなくていい、何もしなくていい、誰かになる必要もない。ただ、あるがままでいられる何より自由な時間だ。この時間だけでも、先の計画や心配事から自分を解放しよう。楽に呼吸を続け、今の自分とともにある自由さ、くつろぎを体感できたらさらに続けたくなる。はじめからストイックに修行だと思わないほうがいい。
1日を振り返って、瞑想の影響・価値を考える: 立ち止まって瞑想した(あるいはしなかった)ことがどう影響したか、振り返ってみよう。「あれ、今日はなぜか苦手な上司ともうまく話せた」「あれ、今日はなぜかイライラしがちだった」など。そして続ける価値があると思えば、続けたり深めたりすればよいし、そうでなければ無理に続ける必要はない。自発的に、自由に行うこと。
雑念がやってくることも歓迎して楽しむ: 呼吸から意識が逸れて「昨日の○○さん、なんであんな態度だったんだろう?」「今日のランチなににしよう?」など思いが「今・ここ」から外れることももちろんOKだ。雑念が浮かぶたびに「しまった!」「いけない!」とダメ出しをしていると、瞑想は苦しいものになって、続けるのもいやになるだろう。それらの思いは何であれ、あなたの「今・ここ」に訪れてくれた訪問者として迎え入れ、それからまた呼吸に意識を戻せばよい。このニュートラルな感覚は、日常生活やビジネスでも冷静さや信頼感を創り出す、重要な基盤となってくれる。
日々の忙しさから、何にもとらわれずくつろぐ時間。責任・肩書・行動・功績とは無縁のあるがままの自分でいる時間。そんな時間がいかに心に滋養を与えよりよい選択を促すかは、数千もの学術論文がなくとも、常識的にわかるだろう。
運動で心身を整えるのがリーダーの間で当たり前となったように、マインドフルネス瞑想もこれからの自己管理法として浸透していくだろう。あなたもぜひ、体験してみてはいかがだろうか?

木蔵(ぼくら)シャフェ君子  一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート理事
近ごろ耳にすることが多くなった「マインドフルネス」。瞑想に近いものですね。お気づきとは思いますが、メディアで取り上げられる頻度が増しているのは、その有効性を示す研究結果が次々に見つかっているためです。ニューエイジっぽく感じるかもしれませんし、人によってはインチキ心理学だとすら思っているかもしれませんが、「マインドフルな状態」でいると、人生のあらゆる面を豊かにできることを裏づける証拠は確かにあるのです。また、この状態に到達するのには、あぐらのような「蓮の花のポーズ」で何時間も過ごす必要はありません。以下に、知っておきたい基礎知識を説明します。


マインドフルネスって結局なんなの?


マインドフルネスにはたくさんの類義語があり、自覚、気づき、集中、覚醒などと言い換えることもできるでしょう。では反対語はというと、単にマインドレスネス(思慮のないこと)だけではなく、注意散漫、ぼんやり、集中力欠如なども当てはまります。
マインドフルネスという言葉は、行為を指して使われることもあれば、精神状態を指す場合もあります(適切な言葉がほかにないのです)。例えば、集中力を研ぎすます脳のトレーニングとして、マインドフルネス瞑想という「行為」があります。これには大抵の場合、いつもより呼吸を意識するという方法をとります。こうして鍛えた脳は、瞑想後も長い間、マインドフルな「状態」でいられるようになります。マインドフルネスの状態にある時は、自分のまわりで起こっていることに、意識を完全に集中できています
なお、後述するように、マインドフルネスの実践には、瞑想のほかにもいくつか別の方法があります。また、瞑想にもたくさんの種類があります。両者は密接な関係を持ちながらも、同じではありません。
マインドフルネスとは、単純に言えば、その一瞬に全力を傾けること、と考えることができます。MITマインドフルネスセンター所長を務めるジョン・カバットジン博士は上の動画の中で、マインドフルネスについて、「今という瞬間に、余計な判断を加えず、(中略)自分の人生がかかっているかのように真剣に、意識して注意を向けること」と定義しています。
シンプルな定義だと思うかもしれませんが、現代の混沌とした世界では、何かに100%没頭することなど容易ではありません。それはつまり、同僚から同じ話を聞かされて、もう3度目になるという時でも、ほんのわずかでさえ気をそらさずに聞き入ることや、皿洗いや「バス停までの道」のような身近な状況でも五感をフル稼働させることを意味するのです。
マインドフルネスは、仏教の教えに根ざしたもので、悟りを開くために大変重要なものだと考えられています。英語版のWikipediaでは、次のように説明されています(太字は筆者によるものです)。

悟り(菩提)とは、欲、憎悪、迷い(無明パーリ語ではmoha)を克服し、放棄し、心から取り去った状態のこと。なかでもマインドフルネスは、(特に、今という瞬間の)物事の本質に対する気づきであり、迷いへの解毒剤であり、ある種の「力」(パーリ語ではbala)であると考えられている。こうした能力が特に力を発揮するのは、今起きていることに対する明確な理解(訳注:正知、もしくは「自己への気づき」)と相まった時である。

同じ状態を、西洋心理学のレンズを通して、新しく、非宗教的に定義し直すこともできます。ハーバード大学教授で、心理学が専門のエレン・ランガー博士は、著書を丸一冊使って、これとは微妙に異なる西洋心理学的な観点からマインドフルネスを説明しています。ランガー博士によるマインドフルネスの定義には、重要なものとして以下のような属性が含まれています。

  • 常に新しいカテゴリーを創造する:マインドフルネスな状態であれば、旧来の分類方法やレッテルにとらわれることなく、状況や文脈に注意を払い、新たな特徴を見出すことができます。例えば、レンガを単なる建材と見るのではなく、ブックエンドや武器、ドアストッパーなど、いろいろな利用法を思いつくことができます。

  • 新たな情報を積極的に受け入れ、物事をさまざまな視点から捉える:マインドフルネスな状態は、カテゴリーを創造できるだけでなく、常に新たな情報を受け取り、新たな可能性に対してオープンになることも意味します。例えば、あなたとパートナーはいつも自分のやり方にこだわって、同じことで喧嘩ばかりしているかもしれません。けれども、相手の視点に対してオープンになることで変化が生まれる可能性があります。

  • 結果よりも過程を重視する:マインドフルネスな状態は、結果についてあれこれ心配するのでなく、ひとつずつのステップに意識の焦点を当てる状態です。例えば、テストの出来を心配するより、その教科を本当の意味で学ぶことです。

つまり、マインドフルネスとは、すべての経験に焦点を合わせ、より意識的になることなのです。ウィリアム・ブレイクの詩「無垢の予兆」(Auguries of Innocence)の冒頭の一節には、このような注意深さがうまく表現されていると個人的に思います。

一粒の砂に世界を求め
野の花に天国を見出す
掌の中に無限を捉え
ひと時のうちに永遠を築く

マインドフルネスの効能って?


「だから何?」と思う人もいるでしょうが、上の定義からもうかがえるように、マインドフルネスを高めれば、集中力が増し、創造性や幸福感、健康、リラックス感が高まり、もっと自分をコントロールできるようになる可能性があります。かけがえのない「この瞬間」に、より深く感謝できるようにもなるでしょう(この瞬間は、誰にでも等しく与えられています。これってスゴいことですよね)。ではここからは、マインドフルネスに関する最新の研究の成果をいくつか見ていきましょう。

  • 記憶力と学業成績を向上させる(心理学関連ブログ「PsyBlog」)。この研究では、学生に注意力を鍛える訓練を行ったところ、集中力の向上(もしくは「上の空の状態」の減少)、短期記憶の向上といった効果が見られました。GRE(大学院進学適性試験)のような、対策が難しいとされる試験の成績すら良くなったそうです。

  • 減量や健康的な食生活に役立つ。>マインドフルネスの考え方を食事に当てはめれば、五感をフルに使いながら、一噛み一噛みを意識してゆっくり食べることになります(米ハーバードメディカルスクール、米誌『Womens Health』)。この食べ方を実施した被験者たちのカロリー摂取量は、空腹時でさえ、対照グループに比べて低く抑えられました。

  • 意思決定能力を高める。いくつかの実験によって、マインドフルネス瞑想を実施した人や、もともと性格的にマインドフルネスの状態に近い人は、「サンクコストの誤り」を免れているという相関関係が確認されました。サンクコストの誤りとは、それまでに費やした時間やエネルギーを惜しんで、先の見込みのない交際や仕事にしがみついてしまう傾向を言います(英国心理学会のブログ「BPS Research Digest」)。

  • ストレスを減らし、慢性的な健康問題の改善を助ける。20の実証研究を対象にしたメタ分析によって、マインドフルネスは、慢性疼痛、ガン、心臓病などの患者の心身の健康をいずれも改善させることが明らかになりました(専門誌『Journal of Psychosomatic Research』)。

  • 免疫力を高め、脳に好ましい変化をもたらす。実験協力者に8週間にわたってマインドフルネス瞑想を指導し、その前後に脳の活動を測定した研究があります(専門誌『Psychosomatic Medicine』)。

  • これまでにわかっているマインドフルネス瞑想の脳への効能が、すべてもたらされる。集中力や創造性の向上、不安やうつ病の軽減、人を思いやる心の向上など...。ここに挙げたのはほんの一例です。

マインドフルネスを実践するには?


残念ながらマインドフルネスは、スイッチを押せばいきなり切り替えられるようなものではありません。ある日を境に、それからの人生をずっとマインドフルネスの権化として生きていけるものではないのです。けれども、徐々に高めていくことはできます。
集中力を高めるには、気が散らないように自分で気をつけて、マルチタスクな仕事術を真似しない、という方法もあります。でも、気が散るのを助けてくれるツールは世にごまんとあり、その助けを借りたって良いのです。マインドフルネスを実践するには、どんなに忙しくても、どんなにストレスのたまる状況でも、いつも意識を研ぎ澄ましていなくてはいけないのですから(実際そういう時は、マインドフルネスがもっとも役立つ場面でもあります)。
まず手始めとして、どうしてもぼんやりしてしまう日でもすぐ我に返れるよう、あらかじめきっかけや手がかりを作っておくと良いでしょう。例えば食事中であれば、フォークを置くたびに、「一噛み一噛み味わって食べる」という目標を思い出すようにしましょう。職場でなら、「1時間ごとの時報」などのリマインダーを設定して、ちょっと休憩をはさむと良いでしょう。
子どもの相手をする前にひと呼吸置けば(相手が大人でも同じことですが)、相手との関係について、もっとマインドフルでいられるでしょう。ほかの実践方法を見ても、感謝の心を持つ、物事をコントロールしようとしない、など、意外に簡単なものがあります。
上に紹介した研究の中に、大学生にマインドフルネスの訓練を行ったら記憶力や学業成績の向上が見られたというものがありましたね。この実験で用いられた訓練には、以下の6つのステップが含まれていました。

  1. 背筋を伸ばして座り、足を組んで、視線を下に向けます。
  2. 自然に浮かんでくる思いと、人為的な考えとを区別します。
  3. 繰り返し過去を思い出したり、未来への不安で気が散るようなら、それを最小限に抑えるために、こう考え直してみます。「過去も未来も、現在の私の心の中の想像にすぎない」。
  4. 瞑想中は、ちょうど船の「」のように、呼吸が集中をつなぎ止めてくれます。
  5. 息を吐くたびにひとつ数を数え、21まで数えたらまた1に戻ります。
  6. 思いが浮かんでくるのを無理に抑えようとせず、心を自然に任せます。

この一連の手順は、マインドフルネス瞑想として知られているので、ご存知の方もいるかもしれません。マインドフルネスを育む最高の方法のひとつです。これは一種の脳のエクササイズで、普段の生活を送りながらでも実践できます(続けやすくするひとつの戦略は、シャワーや犬の散歩など、毎日の日課の最中にこの訓練を行うことです)。
最後にひとつ注意事項を。マインドフルネスの実践はとても有益ですが、心を自然に任せたほうが良い時もあります。米紙『ニューヨーク・タイムズ』は、創造性や洞察力のためには、ぼんやりしたり空想にふけったりすることが必要である可能性を紹介しています。またこの記事によると、高度にマインドフルネスな状態は、「潜在的学習」(無意識のうちに、新しいスキルや習慣を学ぶこと)における効率の低さと相関している可能性があるようです。

こうした残念な研究結果もありますが、俗事と精神世界のどちらにも偏らない「中道の教え」を説いている仏陀であれば、マインドフルネスを利用すべき時と放棄すべき時があるということにも、きっとうなずいてくれるでしょう。深遠な真理を発見したり、試合や試験で成功したりするには、マインドフルネスが有効ですが、そんなことは忘れて、万物の中に心を解き放つべき時もあるのです。

この考え方に賛同すると決めたなら、あなたにとって必要なのは、意識の集中と精神の休息の時間配分について、自分の中で最適なバランスを見つけることです。